閉店間際の回転寿司店~怪談~

出版社に勤めるバツ1の50歳になる男がいた。

出版社といっても、編集長の他に事務の女性と俺を合わせて3人しかいない小さな編集室で、
その事務の女と編集長は長年不倫関係にあり、不定期に来る編集の仕事の内容は、
AV作品に造詣が深くITスキルに長けている編集長がパソコンを開けばちょちょいのちょいと片付いてしまうようなエロ雑誌系の依頼だった。
ここでの俺の仕事は編集ではなく、この泥船に乗ったような弱小編集室をいかにも有能で英知に満ち、意識の高い、
素晴らしい成長を続ける編集室であるかを毎日YouTubeに嘘八百を並べた動画を投稿し更新する仕事であった。

今日は給料日で、朝起きて早速ネットバンキングで入金確認をしてみたが、
給料は、3ヶ月間振り込まれていない状況だった。
「編集長の後でまとめてドカンと多めに払うから」と話していたのを鵜呑みにした俺が馬鹿だったのだ。
今まで預貯金を切り崩して生活をしていたが、微々たる蓄えも底をつこうとしていて、
スマートフォンの画面には、「ご指定の期間でのお振り込みはありません」と映し出される。
俺には、それが「死ね」といっているようなものだった。

その日も、新橋にある編集室へ賃金未払いの文句を言いに向かったが、
オフィスには、誰一人いない、ものけの空でついにその時が来たんだ、
夜逃げ倒産したんだと彼は悟った。

この時の彼の全財産は、216円、昨日の夜にコッペパンとコーヒー牛乳を胃袋に入れたきりで、
腕時計を観ると、20時30分、丸一日何も食べていないと気がつくと、とても腹が減ってきた。
彼は、あてもなく彷徨い、いつのまにか気がつくと夜のとばりが下りた銀座7丁目界隈にいて、
ネオンが夜の闇に冴え渡り、街は今、産声をあげたような活気に包まれていた。

途方に暮れるとはこの事か・・・と思いつつ、
街をぶらぶら歩いていると、一軒の回転寿司の店が目に入ってきた。
店の有機EL看板には、「只今、全皿0円!無料!」と表示されていて、
身も懐も寂しい風が吹いている彼には魅力的だった。彼は飢えていた。

何の疑いもなくこの男は、店内に入ったが他の客は誰一人もいない。
閉店間際の回転寿司屋は、まるで、地球上で俺一人しかいないような感覚に陥り、無音さが不気味さを醸しだし、
薄暗い灯りの中を腐臭と生臭さだけが漂っていて従業員らしき人影もなかった。

兎に角俺は腹が減っていて飢えていた。適当なカウンター席に座り、
廃棄処分のゴミ箱行きの寿司の皿が廻るレーンからコーンマヨネーズをとって食べてみたら、
「なんだ上手いじゃないか!」思ったより腐りかけのコーンマヨネーズの味はまぁまぁで腹を満たすには申し分なかった、飢えた男に寿司ネタなんて何でもよかったのだ。
彼は、すえた匂いのし始めたコーンマヨネーズを夢中で何皿もほおばったが、

しかし、段々と意識が朦朧としてきて、突然、レーンを見つめていた目線が、
床に落ちている。
「おかしいな」と彼は不思議に思って右目に手を当ててみたら、自分の目玉がぶらーんと飛び出し垂れ下がっていたのである。
耳からは、みそのようなものが流れ出ていて顎を伝ってポタポタと汗のように落ちる。
「一体、コレは何なんだ!」薄れゆく意識のなかで、彼の身に何が起こっているのかは本人も解らない。

その後すぐに体中に痺れが走り、ガンジス河に浮かんでいた死体のように、肌は青白くなり、
みるみるうちに体は球体のように腫れ上がり身動きがとれなくなった途端、
奥の調理場から、黒い調理服に身を包み黒いマスクをした男達が数人現れて、丸々と膨らんだ彼の体を荷台に載せて、
元の調理場へ彼を運んでいった。彼は、最後の力を振り絞り「たたっ・すけ・てくれ!」と叫んだが、
彼の声には誰の耳にも届かない。

この回転寿司店は、人間を解体して寿司ネタにしてしまう、
恐ろしい人食い回転寿司だったのだ。

飛び出した目玉は、いくらに変わり、耳から流れ出た脳みそはウニになって、
次の日に寿司として皿に盛られレーンを廻るのである。

また、今宵も誰かの悲鳴がどこかの回転寿司店に響いているかもしれない・・・
「人間寿司ネタ!閲覧注意!」という見出しでバイトテロ動画として投稿されてるかもしれない・・・